新しく農業を始めようとすると、最初にぶつかる大きなテーマがあります。
それが、
「何を育てるか?」
という問題です。
野菜を作るのか、果樹を作るのか。
米なのか、花なのか。
あるいは、私のようにブルーベリーを育てるのか。
農業を「事業」として考えるのであれば、もちろん、
- どれくらい収益が見込めるのか
- 需要があるのか
- 自分の土地や気候に合っているのか
- 必要な設備や初期投資はどれくらいか
- 自分の労働力で栽培できるのか
といったことを考える必要があります。
実際、新規就農では農地、資金、栽培技術など、さまざまな条件を考えながら経営を組み立てていく必要があります。
ですから、
「好きだから、それだけで決めればいい」
という話ではありません。
それでも私は、これから農業を始める方には、
まず「自分が好きな作物」から考えてみること
をおすすめしています。
その理由は、大きく2つあります。
1.「好き」は農業を続けるためのエネルギーになる

農業は、始めたからといって、すぐに理想的な結果が出るとは限りません。
むしろ、うまくいかないことのほうがたくさんあります。
天候に左右されることもあります。
思ったように収量が上がらないこともあります。
良いものを作れるようになるまで、何年もかかることもあります。
販売を始めても、最初からたくさんのお客様が来てくれるとは限りません。
私自身も、農業を始めてから現在まで、さまざまな失敗や試行錯誤を経験してきました。
その中で感じるのは、
「続ける力」がとても大切だということです。
そして、その「続ける力」の源の一つになるのが、
自分がその作物を好きであること
だと思っています。

例えば、自分の「好き」という気持ちが、自動車でいうところの燃料やエンジンだとします。
一方で、
- 栽培技術
- 農業経営の知識
- 販売スキル
- マーケティング
- SNSやWEBの活用
といったものは、そのエネルギーを前に進む力へ変える車輪やハンドル、さまざまな機構に近いのかもしれません。
もちろん、どちらも必要です。
いくら情熱があっても、栽培技術がなければ良いものを作れません。
経営の知識がなければ、事業として続けていくことも難しくなります。
でも、
エネルギーそのものがなくなってしまえば、車は走り続けることができません。
農業も、それに少し似ていると思います。
2.「自分の商品を愛すること」が最初の武器になる

もう一つ、特に農業を始めたばかりの時期に「好き」が大きな力になる理由があります。
それは、
自分の商品を愛することそのものが、販売につながる
ということです。
農業を始めたばかりの頃は、どうしても知識も経験も不足しています。
私自身も、当時は一生懸命やっていました。
でも、今振り返ってみると、
「もっと上手にできたはずだな」
と思うことはたくさんあります。
今ならわかることも、当時はわかりませんでした。
栽培技術も、経営も、販売も、少しずつ学びながら進んできたからです。
そんな中で、最初から持っていたものがあります。
それが、
「この作物が好きだ」という気持ちです。

好きだからこそ、
「この作物のここが面白い」
「この味を知ってほしい」
「こんなふうに育ててみたい」
と、一生懸命伝えることができます。
もちろん、最低限の商品品質を確保することは大前提です。
でも、まだ知識や経験が十分ではない時期に、
「この商品をもっと知ってほしい」
という気持ちは、意外と大きな武器になります。
そして、その気持ちは案外、お客様にも伝わります。
私は、農業を始めたばかりの頃の「情熱」は、ある意味では経験不足を補ってくれる最初の武器なのではないかと思っています。
「好き」だけでは経営にならない。でも、「好き」がなければ続かない

ここは、誤解してほしくないところです。
「好きな作物を作れば農業で成功できる」
という単純な話ではありません。
農業を事業として続けていくためには、
「好き」+「経営」
の両方が必要です。
例えば、どれだけ好きな作物でも、
- 地域の気候に合っていない
- 栽培が難しすぎる
- 十分な需要がない
- 販売価格とコストが合わない
- 自分の労働力では管理できない
のであれば、事業として成立させることは難しくなります。

だからこそ、
「好きな作物を選ぶ」ことと「事業として成立する条件を考える」ことは、セットで考える必要があります。
私なら、
「好きだから、この作物をやりたい」
を出発点にして、
そこから、
「では、この作物をどうすれば事業として成立させられるだろう?」
と考えていきます。
この順番が大切なのではないかと思っています。
栽培技術やビジネススキルだけでは、農業は動かない

私自身、農業を始めてから、たくさんのことを学んできました。
栽培技術。
植物の生理。
土づくり。
販売方法。
商品開発。
WEBやSNS。
マーケティング。
経営についても、さまざまな知識を学んできました。
こうした知識やスキルは、農業経営を続けるうえで、とても重要です。
私が現在行っている農業・農村起業のコンサルティングでも、こうした知識や経験をお伝えしています。
ただ、どれだけ優れた知識や仕組みを持っていても、
最後にそれを動かすのは「人」です。
そして、その人が、
「これをやりたい」
「この商品を届けたい」
「この農業を続けたい」
と思えるかどうか。
そこには、やはり情熱の部分があります。

だから私は、農業経営を考えるときに、数字や技術だけではなく、
「あなたは、何を育てたいですか?」
という問いも、とても大切にしています。
「儲かる作物」からではなく、「好きな作物」から考えてみる

新規就農で「何を育てるか?」を考えるとき、
「一番儲かる作物は何だろう?」
と考えるのは自然なことです。
でも、それだけではなく、
「自分は、何を育てているときが一番楽しいだろう?」
「何年経っても、この作物と向き合っていたいと思えるだろうか?」
と考えてみるのもおすすめです。
その答えが見つかったら、そこから現実的な条件を一つずつ重ねていきます。
土地は合っているか。
気候はどうか。
必要な設備は何か。
どれくらいの規模が必要か。
どんなお客様に販売するのか。
どんな価格なら事業として成立するのか。
自分の生活と両立できるのか。
そうやって、
「好き」を「事業」に変えていく。
それが、私が考える作物選びの一つの方法です。
農業は、何十年という時間をかけて作物と付き合っていく仕事でもあります。
だからこそ、
「何を作れば儲かるか?」だけではなく、「自分は何を育てたいのか?」
というところから考えてみてはいかがでしょうか。
「好き」は、単なる感情ではありません。
長く続けるためのエネルギーであり、
自分の商品を伝えるための力であり、
そして、自分らしい農業をつくるための出発点にもなるのだと思います。
「何を育てるか?」から一緒に考える

新規就農や農村での起業を考えるときには、
「作物を決めてから経営を考える」
だけではなく、
「自分がやりたいこと」と「事業として成立する条件」を一緒に考える
ことが大切です。
私自身も、ブルーベリー農園をゼロから始め、栽培だけでなく、商品づくり、販売、観光農園、情報発信などを一つずつ組み立ててきました。
現在は、その経験をもとに、
「自分らしく農村で仕事をつくりたい」
という方に向けたコンサルティングも行っています。
「何を作ればいいのかわからない」
「自分のやりたい農業をどう事業にすればいいのかわからない」
「好きなことを仕事にしたいけれど、経営として成立するのか不安」
そんな段階でも構いません。
作物、商品、販売、情報発信、経営。
それぞれを別々に考えるのではなく、
「自分らしい農村ビジネスをどう設計するか」
というところから、一緒に考えていきます。
好きなものを、好きなままで終わらせない。
それを、どうすれば「続けられる仕事」に変えられるのか。
そこまで考えることが、農村で自分らしく生きていくための一歩なのだと思います。