「硫黄」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか?
温泉を思い浮かべる方も多いかもしれません。
硫黄は火山活動などによって地表にもたらされる、自然界にも存在する元素です。

農業ではあまり馴染みのないものに感じるかもしれませんが、植物にとっても必要な成分のひとつです。
そして、実はブルーベリー栽培では、この硫黄を利用することがあります。
では、ブルーベリー畑に硫黄をまくと、いったいどうなるのでしょうか?
硫黄は「土を酸性にする」働きがある

硫黄の大きな特徴のひとつが、土壌のpHを下げる働きです。
pH(ピーエイチ)というのは、簡単にいえば、
土が酸性なのか、アルカリ性なのかを表す数字
です。
7が中性で、それより数字が小さくなるほど酸性になります。
一般的な農作物では、弱酸性から中性程度の土壌を好むものが多いため、わざわざ硫黄を使って土を酸性にすることは、あまりありません。
ところが、ブルーベリーは少し事情が違います。
ブルーベリーは、もともと酸性の土壌を好む植物だからです。
一般的な栽培資料でも、ブルーベリーの適した土壌pHはおおむね4.5~5.5程度とされています。土壌pHが高すぎると、鉄などの養分を吸収しにくくなり、生育不良や葉の黄化につながることがあります。
硫黄をまくと、なぜ土が酸性になるの?

ここは少しだけ専門的な話になります。
硫黄そのものが、すぐに土を酸性にするわけではありません。
土の中にいる微生物などの働きによって硫黄が少しずつ変化し、その過程で酸性化が進んでいきます。つまり、硫黄をまいたから翌日から土が酸性になる、というものではありません。
この「ゆっくり効く」というところも、硫黄の特徴です。
実際、硫黄による土壌pHの変化には数か月以上かかることがあり、土質によっても必要な量や変化のスピードが変わります。そのため、土壌分析をしながら少しずつ調整することが基本になります。
ブルーベリーの森あづみのでは「植え付け時」に少しだけ

では、私たちの農園ではどうしているのでしょうか。
ブルーベリーの森あづみのでは、植え付け時に硫黄の粉末を少し散布しています。
硫黄の効果はゆっくりです。
私たちの畑でも、植え付け後すぐに大きく変化するというより、半年ほどかけて徐々に土壌のpHが下がっていくようなイメージです。
そのため、
「硫黄をまいたから、すぐにブルーベリーが元気になる」
というものではありません。
あくまでも、ブルーベリーが育ちやすい環境を最初につくるための補助的な資材として考えています。
ところが、硫黄にはもうひとつ気になる効果がありました

硫黄を使っていて、もうひとつ気になったことがあります。
それが、獣害対策としての効果です。
私たちの農園では、植え付け時に木材チップなどを利用して、土の表面をマルチングしています。
有機物を土の表面に置いておくと、土の環境が少しずつ変わっていきます。
その一つとして、ミミズなどが増えてきます。
すると今度は、それを餌にするモグラがやって来ることがあります。
実際、木材チップを使った場所では、モグラに掘り起こされることがあります。
ところが、硫黄の粉をまいておいた場所では、
「モグラがここまで来たけれど、途中で引き返したのかな?」
と思うような跡が見られることがあります。
もちろん、これだけで「硫黄にはモグラを防ぐ効果がある」と断定することはできません。
畑の観察から、
「どうも硫黄をまいた場所には近づきにくいように見える」
という経験として捉えています。
森林でも「硫黄」の利用が検討されている

こうした硫黄の忌避効果については、農業だけの話ではありません。
林業などでも、シカやクマなどによる被害を防ぐために、硫黄成分を利用した忌避剤などが検討されています。
特に森林では、水源などとの関係もあります。
そのため、単純に「効けば何でもいい」ということではなく、より環境への負荷が小さい材料を使っていくという視点も重要になってきます。
長野県でも、有機農業の技術について、農家の経験だけでなく土壌データや科学的知見と組み合わせながら考える取り組みが進められています。長野県
では、植え付け後も硫黄をまき続けるのか?

ここが、今回の記事で一番お伝えしたいところかもしれません。
私たちは、植え付け後に硫黄を何度も散布しているわけではありません。
硫黄を使うのは、基本的に植え付け時だけです。
ブルーベリーの根は、植え付け直後から比べれば、時間とともにかなり広い範囲へ伸びていきます。
それでも、植え付け時に硫黄を使った後は、特に問題なく生育しています。
これは、ブルーベリーの根の周りに土壌環境が少しずつできていくことも関係しているのかもしれません。
植物の根の周辺では、さまざまな微生物との関係がつくられています。
いわゆる「共生菌」などとの関係も、そのひとつです。
そうした環境が時間をかけてできてくると、最初から土壌条件を完全にコントロールし続けなくても、植物自身を中心とした環境が整ってくるのかもしれません。
これは、私自身が畑を見ながら感じていることです。
硫黄は「土をつくる主役」ではない

そのため、私たちにとって硫黄は、
「ブルーベリーを育てるために、毎年必ずまくもの」
ではありません。
あくまで、
- 植え付け直後の生育を補助する
- ブルーベリーが好む酸性の土壌環境をつくる
- 獣害対策として、一定の効果を期待する
といった位置づけです。
ブルーベリーの栽培では、硫黄だけでなく、土の中の有機物や水分、排水性、微生物、根の状態など、さまざまなものが関係しています。
だからこそ、
「この資材を使えばうまくいく」
と考えるより、
「この資材には、どんな役割を持たせるのか?」
と考えることが大切なのだと思います。
硫黄を使うときは、取り扱いにも注意

最後に、硫黄を使う際には注意が必要です。
硫黄は土の中で酸化されると、酸性化につながります。
そのため、粉末を扱うときには、風向きなどにも十分注意する必要があります。
また、水と関係することで酸性の物質が生じるため、「自然由来だから安全」と単純に考えるのではなく、適切な量と方法で取り扱うことが大切です。
特に、自己判断で大量に施用するのは避け、土壌pHや土質を確認したうえで、使用する資材の表示・使用方法に従うことをおすすめします。
実際、ブルーベリーの土壌pHを調整する場合も、必要量は土質や現在のpHによって大きく変わります。
「硫黄をまく」から見えてくること

ブルーベリー畑に硫黄をまく。
一見すると、単純な栽培技術に見えます。
しかし、実際には、
植物が好む土壌環境をつくること
だけでなく、
土の中の微生物や根との関係をつくっていくこと
さらには、
獣害など、植物以外の生き物との関係を考えること
にもつながっています。
そして、私たちの農園では、硫黄をずっと使い続けるのではなく、植え付け時の補助として使い、その後は畑そのものがつくられていくのを見ていく。
これも、長く植物を育てていく中で見えてきた、ひとつの考え方です。
「何をまけばいいのか?」だけではなく、
「なぜ、それをまくのか?」
を考えてみる。
農業では、そんな小さな疑問から、意外と大きな発見につながることがあります。
