起業や新規就農をしていると、こんなことを考えることがあります。
「同業者がうちより安い価格でサービスを提供している」
「もう少し安くしたほうがお客さんが来るのでは?」
「この価格では高すぎるのかな?」
事業を始めたばかりの頃ほど、こうしたことは気になるものです。
実際、価格を下げることも、低価格でサービスを提供することも、経営上の一つの選択肢です。
ですから、「値下げ=悪いこと」ではありません。
ただし、値下げをする前に、ぜひ考えておきたいことがあります。
私は、大きく2つあると思っています。
まず、「本当に価格が問題なのか?」を考える

一つ目は、
「現在の価格が、本当にお客さんにとってのネックになっているのか?」
ということです。
これまでさまざまな事業を見てきましたが、実は「価格が高いから売れない」のではなく、単純に「知られていない」だけというケースは少なくありません。
例えば、カフェを始めたとします。
「カフェを始めました!」
と宣伝しているものの、看板を出していない。
お店の場所もよく分からない。
SNSでも発信していない。
チラシも配っていない。
そんな状態で、お客さんがほとんど来なかったとします。
そこで、
「お客さんが来ないから、コーヒーを500円から300円に値下げしよう」
と考えたら、どうでしょうか。
もちろん、300円になったことで来店する人がいる可能性はあります。
しかし、その前に、
「そもそも、この店の存在を知っている人がどれくらいいるのか?」
を考える必要があります。
看板を出す。
Googleマップなどに登録する。
チラシを配る。
SNSで発信する。
地域の人に知ってもらう。
こうした活動のほうが先かもしれません。
つまり、

「売れない=価格が高い」ではない
ということです。
起業したばかりの頃は、商品やサービスを一生懸命つくることに意識が向きがちです。
しかし、どれだけ良い商品をつくっても、知られていなければ売れません。
そのため、値下げを考える前に、
「認知されているのか」
「必要な人に届いているのか」
「商品の価値が伝わっているのか」
を一度確認してみることをおすすめします。
もう一つ大切なのが「ビジネスモデルに合っているか」

そして、もう一つ。
こちらは、さらに重要だと思っています。
それは、
「その値下げが、自分のビジネスモデルに合っているのか?」
ということです。
このことを考えるうえで、非常に分かりやすい考え方があります。
経営コンサルタントの佐藤義典さんが提唱されている、**「差別化軸」**という考え方です。
以前の記事でも紹介しています。
差別化軸とは簡単に言えば、
「自分は、何を強みにして他の事業者と差別化するのか」
ということです。
大きく、
- 手軽軸
- 商品軸
- 密着軸
の3つに分けて考えることができます。
| 手軽軸 | 商品軸 | 密着軸 | |
| 多くの顧客を狙い、低価格で、去る者を追うより新客を狙う | 良いモノを高価格で顧客が限られ、新客よりは既存顧客へ | 一度お客様になったら、徹底的にニーズに応えて離さない | |
| 新規獲得 | ◎ | × | × |
| 顧客維持 | × | ○ | ◎ |
| 頻度向上 | ○ | △ | ○ |
| 点数増加 | △ | × | △ |
| 単価向上 | × | ◎ | △ |
(「売れる会社のすごい仕組み 佐藤義典 青春出版社」P93参照)
「手軽軸」―早い、安い、便利

一つ目は「手軽軸」です。
これは、
早い、安い、便利
といった、利用しやすさを強みにする考え方です。
例えば、コンビニやファミリーレストランなどがイメージしやすいでしょう。
「どこにでもある」
「いつでも利用できる」
「価格が分かりやすい」
「一定の品質が期待できる」
といったことが価値になります。
この場合、価格の安さは重要な武器になります。
また、たくさんのお客さんに利用してもらうことが重要なので、
- 新規顧客の獲得
- キャンペーン
- 特売
- 利用頻度を上げる
といった施策が有効になります。
一方で、高い価格で販売することとは相性がよくありません。
つまり、
「安くすること」がビジネスモデルの中に組み込まれている
わけです。
「商品軸」―こだわりの品質や技術

二つ目は「商品軸」です。
こちらは、
「他では手に入らない品質や商品そのものの魅力」
によって差別化する考え方です。
例えば、
- 高級素材
- 独自の技術
- こだわりの製法
- 高い品質
- 独自性のある商品
などです。
高級料理店や、高品質の商品を販売するメーカーなどがイメージしやすいと思います。
この場合は、価格を下げることよりも、
「なぜ、この価格なのか」を伝えること
のほうが重要になります。
せっかく品質にこだわっているのに、
「今だけ半額!」
「どこよりも安い!」
と価格ばかりを訴求してしまえば、せっかくの商品の価値が伝わりにくくなります。
「密着軸」―お客様との関係性を強みにする

三つ目は「密着軸」です。
これは、
「お客様のことをよく知り、一人ひとりに合わせたサービスを提供する」
という考え方です。
例えば、
「いつもの店」
「自分のことを分かってくれている店」
「困ったときに相談できる店」
といった関係性です。
この場合は、新規顧客を次々に獲得することよりも、
一度来てくれたお客様に、もう一度来てもらうこと
が重要になります。
そのため、
- 顧客との関係づくり
- リピート
- アフターフォロー
- お客様一人ひとりへの対応
- 顧客のニーズを知る
といったことが重要になります。
大切なのは「どの軸を選ぶか」

ここで重要なのは、
どの差別化軸が一番優れているか、ということではありません。
それぞれに向いているビジネスがあり、どれを選んでも構いません。
問題は、
自分がどの軸で勝負するのかが決まっていないこと
です。
例えば、
「高品質な商品を提供します」
と言いながら、安売りキャンペーンばかりする。
「お客様一人ひとりを大切にします」
と言いながら、新規客を集めることばかり考える。
「どこよりも安くします」
と言いながら、少量生産でコストの高い商品をつくる。
これでは、経営上の施策同士が矛盾してしまいます。
だからこそ、
「自分は何を強みにするのか」
を先に決める必要があります。
「値下げ」は差別化軸によって意味が変わる

ここまで考えると、「値下げするべきか」という問いへの答えも見えてきます。
基本的には、**値下げと最も相性がいいのは「手軽軸」**です。
手軽軸なら、
「安くすることで利用しやすくする」
ということ自体が、差別化戦略になります。
一方で、商品軸なら、
「価格を下げる」よりも、
「品質をさらに高める」
「品質の価値を伝える」
「価格に見合う理由をつくる」
といったことが重要になります。
密着軸なら、
「値下げする」よりも、
「もう一度来てもらう」
「お客様のことをもっと知る」
「細かなニーズに応える」
といったことのほうが重要です。
つまり、
値下げが正しいかどうかではなく、自分のビジネスモデルにとって値下げが正しいのか
という視点が必要になります。
個人起業なら「密着軸」は大きな武器になる

私は、特に個人で起業する場合には、密着軸との相性が良いと思っています。
大企業と同じように、
「大量に生産する」
「全国どこでも販売する」
「徹底的に価格を下げる」
という勝負をするのは、個人事業者にとって簡単ではありません。
一方で、小規模だからこそできることがあります。
お客様一人ひとりのことを知る。
細かな要望に対応する。
お客様の声を商品に反映する。
直接コミュニケーションをとる。
こうしたことは、小規模事業者の大きな強みになります。
例えば、私が運営しているブルーベリー農園も、少人数での予約制という形をとっています。
大量のお客様を一度に受け入れるのではなく、一人ひとりのお客様との距離を近くする。
これは、個人経営だからこそできることでもあります。
また、現在はブルーベリーそのものの品質についても、かなり差別化できるようになってきました。
そのため、今後は「密着軸」を基本としながら、少しずつ「商品軸」の要素を強めていくこともできるのではないか、と最近は考えています。
独自の栽培技術や品質などによって、本当に他では得られない価値をつくることができれば、それも大きな強みになります。
ただし、商品軸で本当に差別化できるようになるまでには、技術や商品の積み重ねが必要です。
起業したからといって、すぐに「他にはない圧倒的な商品」ができるとは限りません。
だからこそ、自分の規模や強みから考えて、現実的に選ぶことも大切だと思います。
どの軸を選んでもいい。ただし「一貫性」が大切

差別化軸について、もう一つ重要なことがあります。
それは、
「一つに絞ること」
です。
もちろん、他の軸を完全に捨てるという意味ではありません。
例えば商品軸を選んだとしても、
「商品は最高だけれど接客は最悪」
では困ります。
手軽軸だからといって、
「安いけれど、商品が極端にまずい」
では選ばれません。
つまり、
自分の軸は一つに絞りながら、それ以外についても平均的以上の水準は保つ。
このバランスが大切です。
そのうえで、
「自分が最も力を入れるのはここ」
という軸を一つ決める。
そうすると、価格設定だけでなく、
- 商品開発
- 集客
- SNS発信
- 広告
- 接客
- リピーター対策
- 設備投資
など、さまざまな経営判断に一貫性が生まれてきます。
値下げを考える前に、自分の「軸」を考えてみる

同業者が自分より安い価格で販売していると、どうしても焦ります。
「自分も安くしなければ」
と思ってしまうかもしれません。
しかし、その前に一度立ち止まってみてください。
「そもそも、価格が問題なのだろうか?」
そして、
「自分のビジネスは、何を強みにしているのだろうか?」
と考えてみる。
知られていないのであれば、値下げよりも広報が必要かもしれません。
品質が強みなら、値下げよりも品質の価値を伝えることが必要かもしれません。
お客様との関係性が強みなら、値下げよりもリピーターを大切にすることが必要かもしれません。
逆に、本当に「安さ」や「手軽さ」を強みにするのであれば、値下げが有効な場合もあります。
大切なのは、
「競合が安いから、自分も安くする」
ではなく、
「自分のビジネスモデルにとって、この価格設定は合理的なのか?」
と考えることです。
起業や新規就農では、正解が一つに決まっているわけではありません。
だからこそ、自分の規模、強み、顧客、目指す事業の形を考えながら、
「自分は、何で選ばれるのか」
を決めていく。
その軸と価格、商品、集客方法に一貫性があれば、同業者の価格に必要以上に振り回されることも少なくなるはずです。
値下げを考える前に、まず「自分は何で勝負するのか」を考えてみる。
それが、長く続く事業をつくるための大切な一歩なのだと思います。
