「育てやすい作物」を選ぶ理由~自然に無理をさせない農業という考え方~

農業を始めるとき、

「何を作れば儲かるのか?」

「どんな作物なら売れるのか?」

ということを考える方は多いと思います。

もちろん、これはとても大切なことです。

農業を事業として行う以上、どんなに作りたい作物であっても、

・お客様にとって価値があるのか
・どのように販売するのか
・十分な収益を確保できるのか

といったことを考えなければ、「商品」として成立させることはできません。

私自身も、作物を選ぶときにはこうしたことを考えています。

ただ、その前段階で、私がかなり大切にしていることがあります。

それが、

「育てやすいかどうか」

ということです。

目次

私が作物選びで「育てやすさ」を重視する理由

私はこれまで、ブルーベリーの品種を選ぶときも、野菜やハーブなどを育てるときも、できるだけその土地に適した、育てやすいものを選んできました。

もちろん、

「育てやすいから、この作物に決めた」

という単純な話ではありません。

最終的には、

「それをどう商品にするのか」

まで考えます。

いくら栽培しやすくても、お客様にとって価値のある商品にできなければ、事業としては成立しません。

逆に、どれだけ販売しやすそうな作物でも、栽培に大きな負担がかかるのであれば、私は慎重に考えます。

つまり、

「育てやすさ」と「商品としての価値」の両方を見る。

そのうえで、私はまず「育てやすさ」を入口にすることが多いのです。

新規就農者にとって「育てやすさ」は大きな武器になる

農業を事業として始める場合、失敗する確率をできるだけ下げることは重要です。

特に新規就農の場合、

・栽培技術が十分ではない
・農業経験が少ない
・経営経験も少ない
・資金や労働力にも限りがある

という状態からスタートすることがあります。

そのときに、最初から非常に難しい作物を選んでしまうと、それだけで乗り越えなければならないハードルが増えてしまいます。

だから、

「自分の土地で、無理なく育てられるものを選ぶ」

ということには、大きな意味があります。

これは、単に「初心者でも簡単」という話ではありません。

むしろ、限られた資金や労力、経験を、別のところに使えるという意味で、経営上のメリットがあるのだと思います。

でも、本当に大切なのは「失敗しにくいから」だけではない

ただ、私が「育てやすさ」を大切にしている理由は、実はもう一つあります。

むしろ、こちらのほうが大きいかもしれません。

それは、

育てやすいものは、その土地の自然条件に合っていることが多い

ということです。

土壌。

気候。

水分。

日照。

気温。

季節の変化。

その土地には、その土地なりの環境があります。

そして、そこに適した作物であれば、植物が本来持っている力を比較的活かしながら育てることができます。

私は、ここに「育てやすさ」の大きな価値があると思っています。

農業は「自然の力を借りて」行う仕事

もちろん、農業は純粋な自然環境ではありません。

農地は人間が整備した場所ですし、作物を植え、収穫するという目的を持って、人間が環境に働きかけています。

つまり、農業そのものが人為的な営みです。

一方で、農業は完全に人間の力だけで成り立っているわけでもありません。

太陽の光。

雨。

土壌。

微生物。

昆虫。

植物そのものの生育力。

さまざまな自然の力を借りながら、私たちは農作物を育てています。

だから私は、

「自然をコントロールする」というより、「自然の力を借りながら農業をする」

という感覚を大切にしています。

自然に少し無理をしてもらえば、それだけエネルギーが必要になる

もちろん、自然の条件に合わせることだけが正解ではありません。

例えば、ハウス栽培によって本来の季節とは違う時期に作物を生産することもできます。

温度を調整したり、灌水したり、資材を使ったりすることで、生産者が望む環境をつくることもできます。

それぞれには、それぞれの目的があります。

ですから、

「自然に合わせる農業が優れていて、人工的な栽培は悪い」

という話ではありません。

そうではなく、

自然の流れに少し抗おうとすれば、その分だけ人間側のエネルギーが必要になる。

というトレードオフはあるのではないかと思っています。

それは労力かもしれません。

資材費かもしれません。

設備投資かもしれません。

管理の手間かもしれません。

もちろん、そのエネルギーを投入することで大きな価値を生み出せる場合もあります。

だからこそ、どちらが良い悪いという話ではありません。

ただ、

その土地に合った、育てやすい作物を選ぶことで、自然の力に少し助けてもらえる。

私は、このことをとても大切にしています。

「育てやすい=価値が低い」ではない

ここは、意外と誤解されやすいところかもしれません。

「育てやすい作物なら、誰でも作れる」

「簡単に作れるものは、価値が低い」

そんなイメージを持つ方もいるかもしれません。

でも、栽培者の立場からすると、

育てやすいということ自体が、一つの価値です。

少ない労力で安定して生産できる。

その土地の環境を活かせる。

過度な資材投入を必要としない。

長く続けやすい。

これらは、事業として考えても決して小さなメリットではありません。

そして、そもそも、

商品の価値は、その商品を作る難易度で決まるものではありません。

難しいものだから高価値。

簡単なものだから低価値。

そんな単純なものではないと思います。

大切なのは「価値のある商品」にすること

例えば、比較的育てやすい作物であっても、

・品質を高める
・収穫のタイミングを工夫する
・鮮度を保つ
・加工する
・パッケージを工夫する
・販売方法を考える
・お客様に魅力を伝える

など、商品として価値を生み出す方法はいくらでもあります。

私自身、ブルーベリーについても、単純に「育てる」だけではなく、

「どうすれば、お客様に美味しいと思ってもらえるのか」

というところまで考えてきました。

完熟した実を丁寧に収穫することも、その一つです。

そして、こうした積み重ねによって、農作物は「作ったもの」から「お客様に選んでいただく商品」になっていきます。

これは、以前の記事でも書いたように、良い素材をつくることと、商品としての価値を伝えることは別々に考える必要があるということにもつながります。

「自然に合う」と「ビジネスとして成立する」は両立できる

私は、

「自然に負担をかけない農業をしたい」

という思いだけで、作物を選んでいるわけではありません。

農業を仕事にする以上、

「それで生活していけるのか?」

という視点は当然必要です。

だからこそ、

「育てやすい」

↓

「無理なく生産できる」

↓

「品質を高められる」

↓

「お客様に価値を感じてもらえる」

↓

「商品として販売できる」

という流れをつくることが重要なのだと思っています。

これは、「自然に合わせれば儲かる」という単純な話でもありません。

販売や商品設計には、別の工夫が必要です。

ただ、少なくとも、

自然に無理をさせることでしか成立しない事業にする必要はない。

私は、そう考えています。

新規就農だからこそ、「難しいこと」より「続けられること」

新しく農業を始めると、

「他の人がやっていない作物を作りたい」

「珍しいものを作って差別化したい」

「難しい技術を身につけて高付加価値化したい」

という方向に目が向くこともあります。

もちろん、それも一つの戦略です。

しかし、私はそれだけが農業ビジネスではないと思っています。

むしろ、最初は、

「自分の土地で無理なく育てられるものは何か?」

と考えてみる。

そのうえで、

「その作物を、どうすればお客様にとって価値のある商品にできるか?」

を考える。

この順番でもいいのではないでしょうか。

「育てること」と「売ること」を別々に考えるのではなく、

育てやすさを土台にして、商品としての価値を設計する。

私は、そんな作物選びを大切にしています。

「育てやすさ」は、手を抜くためではない

最後に、私が「育てやすさ」という言葉で伝えたいことがあります。

それは、

「できるだけ楽をしたい」

ということではありません。

むしろ逆です。

自分の力だけで何とかしようとするのではなく、

その土地の気候や土壌、植物の性質をよく観察して、

「自然がすでに持っている力を、どうやって活かすか」

を考える。

そうすれば、人間が頑張り続けなければ維持できない農業ではなく、自然の力にも支えてもらいながら、長く続けられる農業に近づけるのではないかと思っています。

農業は、人間だけで完結する仕事ではありません。

だからこそ、

「何を作れば売れるか?」

だけではなく、

「この土地で、無理なく育ってくれるものは何か?」

という視点も、作物選びの大切な入口になるのではないでしょうか。

そして、その「育てやすいもの」を、きちんと商品として設計する。

私は、それが

自然に即した栽培と、事業としての農業を両立させる一つの方法

なのだと考えています。

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この記事を書いた人

脱サラ元公務員。
13年働いた県庁を辞めて、農業法人を経て独立。
ブルーベリー農園を経営しています。

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