農産物を販売するとき、「品質には自信があるから大丈夫」と考えていても、意外と見落としやすいのが食品表示です。
私も就農した当初は、「どこまで表示すればいいのか」「どんな言葉を使っていいのか」がよく分かりませんでした。
食品表示は、お客様との約束でもあります。
一方で、知らないまま販売してしまうと、法律やガイドラインに抵触してしまう可能性もあります。
今回は、新規就農者や農業経営者の方が最低限押さえておきたい食品表示について、実務目線で整理してみたいと思います。
食品表示法とは?

現在の食品表示は、**食品表示法(平成25年法律第71号)**に基づいて定められています。
この法律は、
- 食品衛生法
- JAS法(旧:農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)
- 健康増進法
で、それぞれ定められていた表示ルールを一つにまとめたものです。
実際の表示方法については、**食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)**で細かく規定されています。
農産物を販売するのであれば、この「食品表示基準」を理解しておけば、多くの場合は対応できるでしょう。
まず重要なのは「産地表示」

農産物では、最も基本となる表示が産地表示です。
食品表示基準では、
- 国産品は「都道府県名」
- 輸入品は「原産国名」
を表示することが原則となっています。
ただし、国産品については、
- 市町村名
- 一般によく知られた地域名
で表示することも認められています。
例えば私の農園は長野県安曇野市穂高地区にありますので、
- 長野県産
- 安曇野市穂高産
- 安曇野産
といった表示が可能です。

直売所では、生産者名や産地表示を店舗側で印字してくれるケースも多いですが、「店舗がやってくれるだろう」と思い込まず、生産者自身も一度確認しておくことをおすすめします。
摘み取り園は対象外となる場合も

一方で、観光農園など、生産した場所で収穫した果実をその場で量り売りする場合は事情が異なります。
食品表示基準では、
容器包装に入れず、生産した場所で販売する場合
などは表示義務の対象外とされています。
例えばブルーベリー狩りで収穫した果実を、そのまま計量して販売するケースでは、通常の産地表示は不要になります。
販売形態によってルールが異なる点は、意外と知られていません。
「有機栽培」は誰でも表示できるわけではない

近年、「オーガニック」や「有機」という言葉への関心が高まっています。
しかし、
- 有機○○
- 有機栽培○○
- オーガニック○○
と表示するためには、有機JAS認証を取得している必要があります。
有機農産物の基準は「有機農産物の日本農林規格(有機JAS)」で定められており、認証機関による審査を受けて初めて「有機」と表示できます。
つまり、
「実際には有機と同じ栽培をしている」
というだけでは、有機表示はできません。
認証を受けていない農産物に「有機」と表示すると、有機JAS制度だけでなく、食品表示基準の表示禁止事項にも抵触する可能性があります。
ちなみに、ブルーベリーの森あづみでは、有機JAS認証を取得していますので、「有機ブルーベリー」と表示して販売しています。
「無農薬」「減農薬」「自然栽培」は使えない

昔はよく見かけた
- 無農薬
- 減農薬
- 無化学肥料
- 減化学肥料
という表示ですが、現在では基本的に使用を避けた方がよいでしょう。
最近でいうと「自然栽培」なども該当します。
これらは、「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」で表示しないよう求められています。
ガイドラインは法律ではなく行政指導ですが、行政が示す一般的な考え方として非常に重要です。
さらに、実際よりも著しく優良であると誤認させる表示は、食品表示法の表示禁止事項に抵触する可能性もあります。
もし栽培方法を表示するのであれば、
- 栽培期間中農薬不使用
- 栽培期間中化学肥料不使用
など、ガイドラインに沿った表示方法と、栽培責任者・確認責任者など必要事項を合わせて表示することが望ましいでしょう。
WEBサイトや観光農園はどうなる?

ここで一つ誤解しやすい点があります。
食品表示法が対象としているのは、
販売する農産物そのものの表示
です。
そのため、
- 農園ホームページ
- ブログ
- SNS
- 観光農園での体験サービス
などは、現行制度では食品表示法上の表示義務の対象ではありません。
また、ECサイトについても、2026年7月現在では現物表示と同じルールは適用されていません。
もっとも、インターネット販売の影響力は年々大きくなっており、国でも制度の見直しが検討されています。
将来的には、現物表示に近いルールが整備される可能性もあるでしょう。
冷凍ブルーベリーは加工食品?

意外と悩むのが冷凍ブルーベリーです。
実は、
単に冷凍しただけ
あるいは
単にカットしただけ
であれば、加工食品ではなく、生鮮食品として扱われます。
ただし、私自身が保健所へ相談した際には、
加工食品に準じて、
- 保存方法
- 賞味期限
なども表示した方が望ましいという指導を受けました。
これは法的義務ではありません。
しかし、お客様に安心して購入していただき、不要なトラブルを防ぐという意味では、販売者として積極的に表示した方がよい内容だと考えています。
ルールは面倒。でも消費者を守る役割もある

「無農薬」等という分かりやすい言葉が使えないことに違和感を覚える方もいるでしょう。
確かに、食品表示のルールが、必ずしも消費者にとって分かりやすいとは言えない場面もあります。
一方で、日本農林規格や有機JAS制度が整備された背景には、不適切な表示の商品が流通したという歴史があります。
完璧な制度を作ることは難しくても、一定のルールを設けることで、最低限の品質や信頼性を担保し、消費者を守っている側面もあります。
だからこそ、生産者としては、
「法律だから仕方なく守る」
ではなく、
「お客様に安心していただけるよう正しく伝えるためのルール」
という視点で向き合うことが大切なのではないでしょうか。
まとめ
食品表示は、難しい法律の話に思えるかもしれません。
しかし、実際には販売方法や表示方法を少し工夫するだけで対応できるものも多くあります。
反対に、知らなかったという理由だけでトラブルになるのは非常にもったいないことです。
私自身も就農後、行政へ確認しながら一つずつ学んできました。
法令を押さえつつ、お客様に安心していただける表示を心掛けることが、結果として農園の信頼につながると考えています。
農業経営は「栽培」だけではありません

新規就農では、栽培技術だけでなく、
- 食品表示
- 農地法
- 労務管理
- 販売戦略
- ブランディング
など、幅広い知識が必要になります。
私も就農以来、農業経営や法務について学びながら、農園経営を続けてきました。
現在は、新規就農者や農業経営者向けに、こうした実務面も含めたコンサルティングを行っています。
「制度を知らずに損をしたくない」「販売や経営も含めて相談したい」という方は、お気軽にお問い合わせください。
栽培だけではなく、”経営できる農業”を一緒につくっていければと思います。
参考資料
- 食品表示法(平成25年法律第71号)
- 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)
- 食品表示基準Q&A(消費者庁)
- 有機農産物の日本農林規格(有機JAS)
- 有機農産物及び有機加工食品のJAS規格Q&A(農林水産省)
- 特別栽培農産物に係る表示ガイドライン
- 特別栽培農産物に係る表示ガイドラインQ&A
