農業を始めると、必ずと言っていいほど考えることになるのが、
「人手をどうするか」
という問題です。
特に、収穫期のように短期間に作業量が一気に増える農業では、一人ですべてをこなすのは難しくなります。
その人手を確保する方法の一つとして、「援農」という形があります。
今回は、私自身の「援農」に対する考え方について書いてみたいと思います。
「援農」という選択肢

「援農」という言葉を聞くと、農家の農作業をボランティアとして手伝うことをイメージする方も多いと思います。
実際、自治体やJAなどが援農ボランティアを募集し、農家とボランティアをつなぐ取り組みもあります。
収穫や草取り、出荷作業など、農家にとって人手が必要な仕事を手伝ってもらう仕組みです。
もちろん「ボランティア」ですから、一般的な雇用のように労働時間に対して賃金を支払う形ではありません。
その代わりに、
- 収穫物を持ち帰る
- 農作業そのものを体験する
- 農家との交流を楽しむ
- 自分が関わった農産物を食べる
といったことが、参加する側にとっての価値になる場合もあります。
実際、援農にはさまざまな形があり、農産物をお土産として提供したり、謝礼を設定したりする事例もあります。
私は以前、ブルーベリーの収穫を手伝ってもらい、その一部を持ち帰ってもらうような話を聞いたことがあります。
「農業を応援したい人」と「人手が必要な農家」の、お互いのニーズが合えば成立する仕組みです。
私は「援農」という形をとっていません

では、私自身はどうしているかというと、
現在、「援農」という形はとっていません。
ブルーベリーの収穫期など、作業量が一気に増える時期には短期スタッフを増やしています。
ただし、そのすべてを**「雇用」**としてお願いしています。
これは、援農という仕組みを否定しているからではありません。
私自身の農業経営には、雇用という形のほうが合っていると考えているからです。
なぜ「仕事」としてお願いするのか

私がブルーベリーの収穫で大切にしていることがあります。
それは、
品質の高いものを選んで収穫すること。
そして、
丁寧な仕事によって、お客様に届ける商品をつくること。
です。

ブルーベリーは、ただ実を採れば商品になるわけではありません。
熟し方を見ながら収穫する。
傷んでいないか確認する。
商品として適したものを選ぶ。
こうした一つひとつの作業が、最終的な商品の品質につながります。
そして、それは私の農業ビジネスにとって、単なる「作業」ではありません。
経営そのものの一部です。
だからこそ、私はそこを「仕事」としてお願いしたいと考えています。
「善意」に甘えてしまわないか

もう一つ、私自身が援農という形に少し慎重になる理由があります。
それは、
善意で来てくれた方に、どこまで自分の意図を伝えられるだろうか
ということです。
「ボランティアなのだから、そこまで細かく言わなくてもいいのではないか」
という気持ちが、私の中に出てしまうかもしれません。
もちろん、実際の援農では農家側から作業内容を説明し、一定の基準を設けているケースもあります。ブルーベリーの収穫を含め、作業の難易度を設定している援農事業もあります。
それでも私自身は、
「この実はまだ収穫しません」
「ここはもう一度確認してください」
「このやり方でお願いします」
といったことを、必要な場面では遠慮なく伝えたい。
そう考えると、現在の私にとっては「雇用」という形のほうが、お互いに分かりやすいのです。
雇用は「上下関係」ではない

ここでいう「仕事としてお願いする」というのは、上下関係をつくりたいという意味ではありません。
むしろ、
誰が何を担当するのか。
何を目指して作業するのか。
どこまでお願いするのか。
こうしたことを明確にしやすいのが、「仕事」という形なのだと思っています。
仕事であれば、指示する側とされる側という役割が自然に生まれます。
もちろん、それは人間としての上下ではありません。
目的を共有して、それぞれの役割を担う。
そう考えると、「仕事」という仕組みは、ある意味では人が集まって一つのものをつくるための、非常に分かりやすいシステムなのだと思います。
とはいえ、援農を否定しているわけではありません

ここは、はっきり書いておきたいところです。
私は現在、援農という形を選んでいません。
でも、
「援農はやるべきではない」
と考えているわけではありません。
農業経営に、唯一の正解があるわけではないからです。
どんな人に来てもらいたいのか。
何を手伝ってもらいたいのか。
農家と参加者の関係をどうつくりたいのか。
農業体験を重視するのか。
地域とのつながりを重視するのか。
あるいは、純粋に繁忙期の労働力を確保したいのか。
求めている結果によって、適した方法は変わります。
そして、経営者のキャラクターや、支援してくれる人との関係性によっても、合う形は変わるでしょう。
実は、私自身も「援農」に助けられた

そんな私ですが、実は農園を始めたばかりの頃には、援農的な形で助けてもらった経験があります。
観光農園を整備していた初期の頃。
まだ十分な報酬をお支払いできる状態ではありませんでした。
そんな時に、農園づくりを手伝ってくださった方々がいました。
本当にありがたかったです。
みんなで一緒に農園をつくっていく。
そんな感覚がありました。
当時の私は、まだ農園をつくっている途中でした。
だからこそ、手伝ってくれる人がいることそのものが嬉しかったのだと思います。
今でも、その時のことは良い思い出として残っています。
つまり私は、
「援農に助けられた経験があるからこそ、今は雇用を選んでいる」
とも言えるのです。
経営が変われば、選択も変わる

農園を始めたばかりの頃と、現在では、当然ながら経営の状況が違います。
できることも違います。
必要としていることも違います。
だから、人手の集め方が変わっても不思議ではありません。
初期には「みんなで農園をつくる」ということ自体に大きな意味がありました。
一方、現在は、収穫したブルーベリーを「商品」としてお客様に届けることも、農園経営の大切な部分になっています。
だから私は今、
「仕事として、しっかりお願いする」
という選択をしています。
そして、これから先、また経営の形が変われば、人との関わり方も変わるかもしれません。
大切なのは「援農か、雇用か」ではない

新規就農を考えている方からすると、
「人手が足りないから、援農を募集しよう」
と考えることもあると思います。
もちろん、それも一つの方法です。
ただ、私はその前に、一度考えてみることをおすすめします。
「自分は、人に何をしてもらいたいのか?」
そして、
「その人に、どんな結果を出してもらいたいのか?」
です。
例えば、
「農園を一緒につくっていきたい」
のであれば、援農という形が合うかもしれません。
「農業を体験してもらいたい」
という目的なら、また別の仕組みが考えられるでしょう。
一方で、
「一定の品質基準で商品をつくりたい」
「繁忙期の作業を安定して任せたい」
「作業について必要なことを遠慮なく伝えたい」
のであれば、雇用という選択肢が合うかもしれません。
大切なのは、
「援農が良いか、雇用が良いか」ではない。
ということだと思います。
自分がつくりたい農業の形。
自分が得たい結果。
そのために必要な仕組み。
そこから逆算して、人との関わり方を決めていく。
私は、それが農業経営では大切なのではないかと思っています。
「人手不足」から考えるのではなく、「つくりたい農業」から考える

新規就農すると、どうしても目の前の問題を解決することに意識が向きます。
「人が足りない」
「作業が間に合わない」
「誰か手伝ってくれないだろうか」
もちろん、それは大切な問題です。
でも、経営者として一歩引いて考えてみると、
「そもそも、どんな農業をつくりたいのか?」
というところから考えたほうが、選択肢は増えるのではないでしょうか。
援農。
雇用。
家族労働。
外部委託。
農福連携。
地域との協力。
いろいろな方法があります。
その中から、自分の農業に合う方法を選んでいく。
農業経営には、栽培技術だけではなく、こうした「人との関わり方」についての判断も必要になります。
私自身も、まだまだ試行錯誤の途中です。
だからこそ、
「これが正解です」
という話ではありません。
「私は今、こう考えている」
という一つの事例として、今回の記事を書いてみました。

このテーマは、実は新規就農の相談でもよく出てくる部分です。
「人手が足りないから、人を雇おう」
「農地が足りないから、もっと借りよう」
「売上を増やすために、商品を増やそう」
といったように、目の前の問題に対する対策を考えることは大切です。
ただ、その前に、
「その方法で、自分はどんな農業経営をつくりたいのか?」
を整理してみる。
私は、そこが非常に重要だと考えています。
新規就農や農業での起業を考えている方で、
- 自分に合った農業経営の形を整理したい
- 何から始めればよいのか分からない
- 作物や販売方法、人手の確保について迷っている
- 補助金や設備投資ではなく、まず事業そのものを考えたい
- 自分の経験や強みを農業経営にどうつなげればよいか考えたい
という方は、一度ご相談ください。
私自身も2019年に新規就農し、試行錯誤しながら農園をつくってきました。
「成功する方法」を教えるというより、その人自身がつくりたい農業の形を整理し、そこから具体的な選択肢を考える。
そんな形で、農業での起業・新規就農をサポートしています。

