脱サラ元公務員、現在はブルーベリー&パーマカルチャーの農園をやっています 神崎辰哉(かんざきたつや(@ttykanz) )です。
農園の名前は長野県安曇野市、北アルプスの山麓で「ブルーベリーの森あづみの」といいます。
私は、前職は県庁の技術職員(林業職)でした。
栃木県庁で5年、長野県庁で8年間、計13年間、森林・林業の仕事をしていました。
現在も、時々、林業関係の団体の仕事をしています。
現在、メインにしているのは自営業の農業ビジネスですが、
今も森づくりからは農業的にも学ぶことがすごくあると感じています。
特に、森林の生態系は共生菌と植物が創り出しているもの大きく、「森の植物と共生菌」について書いてみました。
森は共生菌(菌根菌)の世界
森林にはりめぐらされた「菌糸ネットワーク」
自然界の植物のほとんどは、根で共生菌と共生しています。
森林生態系内の水分や養分のやりとりの調整、実生の発芽まで関わっていると言われています。
森林生態系は、特に顕著で、菌根菌などの「菌糸ネットワーク」が森中にはりめぐらされています。
表土だけではなく、基岩の亀裂などにもはりめぐらされているようです。
農業では、有機物が無機化されて植物が利用していると長らく言われていました。
しかし、最近の研究では、菌根菌などの「エンドファイト」が分子量の大きい有機物の状態から、直接栄養分を取り組んでいることが明らかになりつつあります。
さらに、森林生態系では、ほとんど有機物の形で直接利用され、無機化された窒素などは、ほとんど利用されていないと言われています。
これは、森林の植物たちが、病原菌から実を守ったり、遠方から水分や栄養分を調達できる菌根菌等との共生を優先しているためではないか、
と考えられています。
自然植生の広葉樹はもちろんのこと、人工林で植栽されるスギ、ヒノキ、アカマツももちろん共生菌が共生します。
アカマツは、乾燥するやせた尾根など過酷な環境にも耐えられるのは、マツタケ菌などの外生菌根が共生しているためです。
カビやキノコの仲間には、生きた植物の根などと共生する「菌根菌」と落葉や死んだ生物を分解する「腐生菌」があります。
おそらく、前述の「菌糸ネットワーク」は、主に「菌根菌」のことを言っているのではないかと思います。
腐生菌は、そこにある有機物を分解しながらコロニーをつくるので、水分や養分を遠くから調達する必要がないからです。
なお、アカマツは、自らの落葉などで有機物が堆積してくると、弱ってしまいます。
マツの菌根菌は、競争に弱く、有機物が堆積してくると、腐生菌や別の菌根菌に負けてしまうためです。
そのため、落ち葉などで有機物が増えてくると、マツの菌根菌は弱り、マツは弱って、消えていくことになります。
もともと、マツは生態系がかく乱された状態のやせ地に、最初に侵入してくる植物なので、そもそも、土壌が肥えてきたり、植物が増えてくると日陰では実生が育たないので、いずれ消えていく運命にあります。
現在、アカマツ林がまとまって存在している場所は、かつて、大規模に伐採したりして、かく乱された場所が燃料利用など、落ち葉などを採種して維持されてきた可能性が高いと思います。
本来は、尾根筋などにひっそりと残っている樹木です。
近年、全国的にマツタケの生産量が減少しているのは、マツの葉などが燃料として利用されなくなり、
有機物が堆積して、マツタケ菌が弱って消えていってしまっていることが、原因ではないかという説があります。
アカマツは、乾燥にも耐えられますが、実際には湿潤にもそれなりに耐えます。
しかし森林の中では尾根などにしか見られないのは、競争に負けて、他の木が生えにくい場所にしか残っていないためです。
ヒノキは浅根性で、スギは深根性ですが、一般に、浅根性の樹木の方が耐乾性が強いです。
一見、逆のような気がしますが、根が浅い分、共生菌が水分調達などを補ってくれているのかもしれません。
ヒノキの場合は、水分量が多いと、「とっくり病」になることがあります。
農作物にも共生する菌根菌たち
農作物でももちろん、ほとんどの植物に菌根菌が共生します。
無機化された窒素などが多いと、減少していくため、肥料の投入とはトレードオフの関係にあるとも言えます。
AM菌根菌(アーバスキュラー菌根菌)に分類される菌根菌は、共生する植物の範囲が広く、多くの植物に共生しています。
ブルーベリーにもツツジ科の植物に特化した「エリコイド菌根菌」という菌根菌が共生しています。
ツツジ科の学名は「Ericaceae」といいますので、この頭文字部分をとって名付けられています。
なお、AM菌根菌は、ブルーベリーにも共生するらしく、エリコイド菌根菌と両方検出された例もあります。
ブルーベリーのエリコイド菌根菌は、地植えしているブルーベリーにもポット栽培しているブルーベリーにもほとんどの場合に確認できるそうです。
森林の土を畑にもってきてもうまくいかないわけ
森林の土壌は、落葉や落枝により腐葉土が厚く積み重なった状態で、すぐれた土壌となっています。
しかし、どの土壌を畑にもってきてもうまくいかないことが多いようです。
たしかに、土の成分や微生物相は豊かなのかもしれませんが、樹木や植物の根+菌根菌+土壌という「ネットワーク構造」が存在するからこそ意味があります。
畑でも菌糸ネットワークを作ることができるのか?
森林のような共生菌(菌根菌)による「菌糸ネットワーク」を畑にも作ることができるのでしょうか。
畑は森林と比較すると、作物だけ植わっていたりと、単純化された生態系です。
しかし、AM菌根菌をはじめ、共生菌はアブラナ科など一部を除くほとんどの植物に存在しているので、
土壌を頻繁に耕起したり、すると、菌根菌のネットワークを阻害してしまいます。
植物が枯れても根が自然に地面に残るようにすることや、地表面を裸地化しないことが大切です。
なるべく不耕作にし、草生栽培や混植などで、地表の植物の種類や数を減らさないようにすれば、
菌根菌による「菌糸ネットワーク」は畑にも作り出せるように思います。
自然栽培などの無肥料もしくは少肥で育っている畑は、実際にこのような状態になっているのかもしれません。
また、果樹栽培のような多年性植物での草生栽培は、さらに適しているように思います。
リン酸が土壌に固定され、不足しがちな黒ボク土などの火山灰性土壌では、
窒素よりもリン酸不足が成長の阻害要因になりやすいので、リン酸を取り込んでくれる共生菌は特に重要です。
だいぶ以前から、リン酸肥料の原料であるリン鉱石などの枯渇が懸念されていました。
肥料が高騰している今、菌根菌の研究は今後ますます加速していくように思いますので、これからさらに楽しみです。
(参考文献)
〇ここまでわかった自然栽培(杉山修一 農山漁村文化協会)
〇菌根菌の働きと使い方(石井孝昭 農山漁村文化協会)
〇土中環境~忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技(高田宏臣 建築資料研究社)
〇 イラスト&写真でやさしく解説よくわかる土中環境(高田宏臣 PARCO出版)
〇森林科学(農業308)(実教出版)
※本ブログに掲載した写真は私が山などで撮影したものです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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